文系醫學生の記録

北海道大學醫學科學生井上大輔が書いてゐます.

神経科学

「運動状態」は英語では「motion state」と言う。Motive と static は反意語だから、従って motion state も元来は形容矛盾であるが、Newton の運動の第1法則の発見によって物体が静止している状態と等速度運動をしている状態は「力の働いていない状態」と統一的に記述できるようになり、「motion state」という言葉がようやく形容矛盾ではなくなった、という話がある。

西洋語では、科学の言葉と日常の言葉の間の垣根が低い。多くの科学用語は、日常用語から流用されたものである。だから、motion にしろ state にしろ、ほとんどの単語の一つ一つが科学の成立する前からの歴史・来歴を背負っている。だからこそ、人の心に「これは形容矛盾だ」という感想を抱かせるのだ。

これに比べると、日本語では科学の言葉と日常の言葉は遠く離れている。科学用語のほとんどは幕末・開国期に西洋の科学を受容してから科学のために作った語である。だから、科学用語を日常の感覚に照らして自然だとか不自然だと感じることがそもそも少ない。

「神経」は、そんな日本語の科学用語には珍しい来歴を背負った語だ。これは、「神気経路」の略である。呪術的・宗教的な用語を科学の領域に流用しているのである。してみると、「神経の合理的理解」とか「神経科学」というのは形容矛盾を含む言葉だろう。

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